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スモモ
プレ入部企画 ない作品を作ろう
上演しない作品
スモモの花言葉『誤解』『約束を守って』
をテーマにした1組の男女の物語
学生時代と今を繋ぐものは....
脚本:小林優希奈
『スモモ』
登場人物(役者人数3~6人)
梅都 笑梨 (うめず えり) 女 27歳/18歳
桜川 宏晴 (さくらがわ ひろはる) 男 26歳/17歳
橘 友和 (たちばな ともかず) 男 17歳
カフェ店員 男女どちらでも
花言葉:「誤解」「約束を守って」
プロローグ
東京都内のカフェ。宏晴が扉を開ける。
店員:いらっしゃいませ。お一人様でよろしいでしょうか?
宏晴:あ、いえ。後から来ます。一人。
店員:かしこまりました。お好きなお席へどうぞ。
宏晴:どうも。
店員:ご注文、お決まりになりましたらお呼びください。
宏晴:ありがとうございます。
カフェに慌ただしい様子で笑梨が駆け込んでくる。
笑梨:すみません、遅くなりました。
宏晴:いえ、大丈夫ですよ。
笑梨:本当に申し訳ありません。
宏晴:そんな。むしろちょうど良かったかもしれません。
笑梨:ちょうど良かった?
宏晴:実は、駅でお土産を選んでいたら僕も時間がなくなってしまったんです。東京へ出張に行くと言ったら、地元の友人たちからのリクエストがうるさくて。
笑梨:そうだったんですね。何かいいものは見つかりましたか?
宏晴:おかげさまで。あ、メニューどうぞ。
笑梨:ありがとうございます。…へえ、桃のフェアとかやってるんですね。
宏晴:桃ですか。
笑梨:おいしそう。
宏晴:いいですね。
笑梨:いやでも流石に、打ち合わせに桃と言うのも…。
宏晴:お気になさらず。食べたいものをどうぞ。
笑梨:…すみません、もう少し悩ませてください。
宏晴:全然、ごゆっくり。
笑梨:あ、スイーツだけじゃなくて桃のジュースとかもあるんだ…。桃とか、お好きですか?
宏晴:……。
笑梨:…あの、
宏晴:…あっすみません、ちょっと考え事を。
笑梨:考え事?
宏晴:ええ。何だか昔のことを思い出してしまって。
春
九年前。夕暮れの公園。
ベンチに宏晴が座っており、そこに笑梨がやってくる。
笑梨:桜川くん、ここにおったんじゃ。橘くんが探しとったよ。帰らんの?
宏晴:梅津先輩。どうしてここに?
笑梨:この公園お気に入りなんよ、静かじゃし。たまに考え事したいときに寄るんよね。
宏晴:あ、すみません、邪魔しちゃって。
笑梨:ええんよ。今日、部活ん時からずっと元気なかったみたいじゃけど…。一年生もよーけ入ってきたのに、何かあったん?
宏晴:……先輩、他の人に絶対言わんって、約束してくれますか。
笑梨:え? う、うん。知られとぉないなら、もちろん言わんよ。
宏晴:…実は僕、親から部活やめるようにいわれとって
笑梨:やめる?でもまだ二年生じゃし、これからがメインの時じゃ…
宏晴:じゃけえ、この一年は勉強に集中して受験に備えろって。
笑梨:そっか…。
宏晴:僕、ほんとにバスケ好きなんですよね。バスケだけが取り柄みたいなもんじゃし、それをやめろって言われたら…
笑梨:…ちょっと、待っとってね。
宏晴:え?
笑梨、自動販売機でジュースを買って戻ってくる。
笑梨:これ、あげる。
宏晴:何ですか、これ
笑梨:私のお気に入りのジュース。おいしいんよ、飲んでみ。
宏晴:…ありがとうございます。
宏晴、缶ジュースを開けて飲む。
笑梨:どう?
宏晴:…おいしいです。
笑梨:えかった、元気出してね。
宏晴:はい。
笑梨:部活のこと、友達には?橘くんとか。
宏晴:いや、トモにはまだ。というか、むしろ言いづらくて。あいつは「今年はもっとバスケに打ち込むぜ!」みたいな雰囲気じゃし、とてもじゃないけど…
笑梨:そっか…。でも、橘くんは相談してほしいんじゃないかな。やっぱし桜川くんが元気なくて心配しとるじゃろうし。
宏晴:でも、僕のこんな話で水差したくなくて。
笑梨:橘くんはきっと、桜川くんと一緒にバスケすることを楽しみにしとるんじゃと思う。何も言わず、急におらんくなったら悲しむよ。
宏晴:……。
笑梨:それに、親御さんともいっぺんちゃんと話しおぉてみたら?桜川くんがどう思っとるか、きちんと伝えてみてさ。
宏晴:話し合い、ですか
笑梨:そう。
宏晴:話し合って、それでどうにかなるんですかね。
笑梨:ダメじゃった時は、また考えりゃあええよ。私結構この公園におるけん、何かあったらおいで。
宏晴:…はい。
笑梨:それにね、桜川くん。もしダメでも、バスケだけが取り柄とかじゃないよ。気付いとらんだけで、素敵なところたいっぱいあるけん。自分自身もちゃんと、見とったげてね。
宏晴:…え?
笑梨:いや、なんかごめん、えらげに色々。
宏晴:梅ちゃん先輩、
笑梨:ん?
宏晴:ありがとうございました。
笑梨:…いえいえ!また明日。
笑梨、去る。入れ替わりで友和がやってくる。
友和:あっヒロ!
宏晴:トモ。
友和:何でこんなとこおるん、探しとったんよ。
宏晴:ごめんごめん。
友和:ん?何?そのジュース。
宏晴:あ、これやるよ。
友和:ええん?全然減っとらんじゃん。
宏晴:苦手なんじゃ、そういう甘いやつ。
友和:ふーん。じゃもらっとくわ、さんきゅ。
宏晴:なあ、トモ
友和:何?
宏晴:ちょっと、相談があるんじゃけど…
夏
体育館でバスケ部が練習をしている。
暑さにやられている宏晴と友和。
友和:あっっっつ。死ぬ。
宏晴:ほんま暑いの。
友和:体育館に冷房入れてくれ、このまんまじゃ溶ける…。
宏晴:わかるけどそりゃ無茶じゃろ
友和:ちょっと飲みもん買いに行こ、炭酸飲みてえ。
宏晴:あ、俺のも頼んでええ?
友和:ええよ、何?
宏晴:ジュース。桃のやつ。
友和:え、また買うん?それ
宏晴:うん。
友和:やめとけって、苦手なんじゃろ。
宏晴:まあ…否定はできん。
友和:結局残して俺が飲むんじゃん、いつも
宏晴:ええじゃろ別に
友和:意味わからん、何で苦手なんに飲むん?
宏晴:とりあえず頼んだ、はい、行ってら。
友和:お前、人使い荒くない?
友和、去る。笑梨がやってくる。
笑梨:宏晴くん。
宏晴:…梅ちゃん先輩!?
笑梨:頑張っとるみたいじゃね。
宏晴:はい。でもやっぱし、先輩方が引退してから大変で。
笑梨:期待しとるよ。宏晴くんたちなら絶対大丈夫。
宏晴:あ、そういやぁ母さんが今度試合を見に来てくれるって。
笑梨:そうなんじゃ、えかったね!
宏晴:はい。先輩も頑張ってください、受験勉強。
笑梨:うん、ありがとね。
宏晴:あの、先輩はどんな大学行くんですか?
笑梨:ん?そうじゃね、私は英語をもっと勉強したいんじゃ。
宏晴:英語?
笑梨:そう。英語とか、他の言語を大学でいっぱい勉強して、いつか海外で活躍したいん。
宏晴:すごいですね、海外か…。
笑梨:まあ、やりたいってだけなんじゃけどね。
宏晴:先輩が海外に行っちゃったら、寂しくなりますね。
笑梨:…何言っとん。まだまだ先の話じゃし、それにもし広島を離れる時が来たら、絶対宏晴くんには最初に言うよ。
宏晴:ほんまですか、
笑梨:うん。
宏晴:約束ですよ。
笑梨:うん。
友和、飲み物を持って戻ってくる。
友和:ヒロー、こぉて来たぞー
笑梨:橘くん。
友和:あ、梅ちゃん先輩じゃないすか。お久しぶりです。
笑梨:久しぶり。
友和:ほらよ、桃。
笑梨:あ、
宏晴:トモ、お前、ちょっ
友和:え、何?これいつも飲んでんじゃん
宏晴:馬鹿!
友和:はあ?何で殴るん、お前が頼んだんじゃろ。
笑梨:それ、おいしいよね。
友和:え、でもヒロこれ、得意じゃなかっ…
宏晴:いや好きです、ほんまに。めっちゃ。
笑梨:そっか、おいしいよね、桃。
宏晴:はい、おいしいですよね。俺大好物なんです。
友和:え?
笑梨:今ね、学校ん近くのカフェ、桃フェアやっとるんじゃって。もし宏晴くんが良ければ、今度一緒に行こう。
宏晴:行きます、ぜひ
笑梨:えかった。じゃあ後で連絡する!またね、二人とも。
笑梨、去る。
宏晴:トモ、ナイス。
友和:は?殴ったり感謝したり何?てか、お前桃とか好きだったっか?
宏晴:ちょっとカフェ行こうぜ、この後。
友和:この後!?てかお前甘いもん苦手じゃ…
宏晴:じゃけぇよ。ええけん付き合って。
秋
放課後。宏晴と友和が帰り支度をしている。
友和:あー、文化祭も終わり、修学旅行も終わり、この後は何もイベントなし。いやあ、つまらんのぉ。やってられんわ。なあヒロ、遊びに行こうぜ。
宏晴:えー、めんどくさいな。
友和:お前なあ、来年は受験なんじゃけ、今しかないんよ?遊べるん。
宏晴:お前は今から努力した方がええよ。
友和:当たり強!まあでもヒロは、英語すごいよな。夏休み明けからえらい伸びたくない?どしたんあれ。なんか秘密にしとるコツあるんじゃろ。頼む、教えて!
宏晴:ねえよ、勉強しろ。
友和:冷たいな。…いやあ、受験生か。実感わかんな。
宏晴:ほんとにな。
友和:先輩たちも、今頑張っとんじゃろうな。梅ちゃん先輩も、東京の大学受けるんじゃろ?寂しくなるよなあ。
宏晴:…東京?
友和:…え、知らんかったん?
宏晴:うん。
友和:マジか。てっきりもう知っとるもんかと。
宏晴:行くん?東京。
友和:…らしい。なんか、東京に来ないかって男の…
宏晴:男の?
友和:あ、いや、なんでもない。
宏晴:ええけ。
友和:…男の人と梅ちゃん先輩が話しとんの見たって、隣のクラスのやつが。噂じゃあその人と東京で暮らすんじゃないかって。
宏晴:…そう。
友和:いやけどあくまで噂じゃし、
宏晴:ごめん、トモ。先帰るわ。
宏晴、足早に去る。
友和:…完全にやらかしたな。
冬
暗くなった公園。笑梨がベンチに座っている。宏晴がやってくる。
笑梨:ヒロくん。ここ来るん珍しいね。
宏晴:梅ちゃん先輩…。
笑梨:あ、ジュースいる?先輩がおごっちゃろう。
宏晴:…先輩、東京行くってほんとですか。
笑梨:…え?
宏晴:何で言ってくれんかったんですか。
笑梨:…どして?
宏晴:それはこっちのセリフです。
笑梨:…ごめんね。
宏晴:やっぱ、行くんですね。
笑梨:ヒロくんにはゆわん方がええって、そう思ったの。
宏晴:どういう意味ですか。
笑梨:…ヒロくん、東京来ようとするじゃろ。
宏晴:馬鹿にせんでください。自分のことくらい自分で決めます。そんなん、余計なお世話です。
笑梨:…そうよね、ごめんね。
宏晴:そんなんじゃないでしょ。
笑梨:え?
宏晴:俺に言わん理由。聞きました、男の人んとこに行くって。
笑梨:違う、それは
宏晴:いいです、聞きたくありません
笑梨:本当に違うの、ヒロくん、聞いて
宏晴:聞きたくない、やめてくれ
笑梨:ヒロくん、
宏晴:先輩がどこにいこうと、僕には関係ありませんから。東京でも海外でも、勝手に行ってください。
笑梨:……そんな…
宏晴:さようなら、お元気で。
春
卒業式。教室にいる宏晴のところに、友和がやってくる。
友和:ヒロ、ええん?卒業式、もう終わるよ。
宏晴:別に。
友和:本当にいいのか、もう会えなくなるかもしれんのんよ。
宏晴:ええよ、会いたくない。
友和:…なあヒロ。
宏晴:なんなん、しつこいな。
友和:俺は、梅ちゃん先輩のゆうこと、正しかったと思うよ。
宏晴:…は?
友和:いつまで無理して飲むんかなって思っとった。桃のやつ。
宏晴:違う、これはほんまに、好きに…。
友和:……。
宏晴:…ほんまに、ほんまに好きだったんよ。俺。
友和:……うん。
宏晴:トモ。
友和:何?
宏晴:俺絶対、絶対に東京だけは行かん。
友和:…そっか。
エピローグ
笑梨:…今の話、全部本当ですか?
宏晴:こんな話、作ってどうするんですか。
笑梨:すみません、今更ですが、お名前をお伺いしても?
宏晴:あ、申し遅れましたが、僕、株式会社UTRの桜川…
笑梨:やっぱり。
宏晴:え?
笑梨:桃、今でも無理してる?ヒロくん。
宏晴:突然、何を……え、まさか、梅ちゃん先輩…
笑梨:うん。大学でも、バスケはしてた?
宏晴:嘘だ、だって全然昔と違うじゃないですか。
笑梨:東京に来てからちょっと雰囲気変えたから、わからないかも。
宏晴:そんな…。
笑梨:ごめんね、東京行くってずっと黙ってて。私のせいでヒロくんのこれからが変わっちゃったら、と思うと申し訳なくて。
宏晴:…あの、先輩、あの時の男の人は
笑梨:ああ、あれは兄なの。
宏晴:え?
笑梨:兄が東京の大学に通っててね。あの時はたまたま広島に帰ってきてただけ。
宏晴:…そうだったんですね、すみません僕、勝手に勘違いして
笑梨:ううん、元々私が正直に言わなかったのが悪いんだから。卒業式に会えなかったのは、ちょっぴり寂しかったけど。
宏晴:…先輩あの、今更言うのも何なんですが…
電話の着信音。
笑梨:あ、
宏晴:いいですよ、先に出てください。
笑梨:ごめんね。(電話に出る)
もしもし、柏木です。あ、その件ですが、今…
宏晴:柏木…。
笑梨:はい、失礼いたします。(電話を切る)
ごめんね、それで、どうしたの?
宏晴:いえ、何も。
笑梨:え、でもさっき何か…
宏晴:大丈夫です、本当に。
笑梨:そう?あ、そうだ、何か注文しないと。どれにする?
店員:失礼致します。ご注文お決まりですか?
笑梨:うーん…私、これにしようかな。桃のタルト。ヒロくんは?
宏晴:あ、僕も……いや、僕はブラックコーヒーでお願いします。
笑梨:いいの?やっぱり、まだ苦手?
宏晴:本当に好きですよ。でも、もうお腹いっぱいなので。
完
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